基本コンセプト
最初に「イングリッシュガーデンが好きなんです。」と仰った奥さまは、数年前にご主人を亡くされたばかりとのことでした。
ご主人が世話されていた芝庭を維持していくのが大変になったこと、そして、何よりこれから迎える老後を明るく元気なものにしたい、そんな思いから一念発起して庭の改修を思い立たれたのでした。
建物自体が英国風のデザインで作られていることもあり、それに似合うお庭を作りたいとのご希望でした。
「イングリッシュガーデン」と日本で言うとき、共通認識としてあるのは、大抵「草花の楽しめる」「明るい雰囲気」の庭、程度のものだと思いますが、今回庭作りに入る前に、さらに具体的なご要望を伺って、お客様のお好みと建物や暮らしにあわせた設計をいたしました。
最初にお客様がご要望されていたのは、以下の点です。
・庭の周囲に生垣になっているレッドロビンを撤去
・代わりの生垣や塀は設けず、オープンな雰囲気の庭にする
・庭に不似合いなキャラの木は撤去する
・芝を撤去し、花壇スペースを増やす
・なるべくメンテナンスが楽に出来る庭にする
ご要望を踏まえて、こちらからご提案したのは、以下の点です。
・夏の木蔭を確保する樹木を植える
・隣家との境には板塀を設置し、庭の景色を浮きあがらせる
・全体に石敷きの園路を作り、園路以外はすべて花壇に出来るようにする
・庭のポイントとなるオブジェ風のものを何かいれる
とにかく草花を楽しめることが第一希望で、当初は、樹木の植栽も少なめにというお話だったのですが、こちらのお宅は真南側が大きく空いているため、日当たりがよすぎることが悩みと言われるほどでした。
日本の気候風土の中で草花を楽しむ庭を作るにあたって、一番問題となるのは、日照不足よりも夏場の直射日光と湿度です。
草花を健やかに育むためにも樹木は一定の数を植栽し、夏場の木蔭を作る必要性があることをご説明し、納得頂きました。
また、既存の樹木については極力動かさず、そのままとし、透かし剪定をして爽やかに仕立て直しました。
当初は、隣家との境にあったレッドロビンの生垣を撤去後、特に仕切りは必要ないと言われていたのですが、庭の景を作る上で、隣家との仕切りは奥行きを出すために必要と思い、板塀をご提案いたしました。
同時に、石を使った園路を作り、「庭の中に花壇を作る」ではなく、「園路以外はすべて花壇」という発想でより広い花壇スペースを確保することをご提案致しました。
また、全体的な雰囲気として、建物自体がレンガを使用した洋風なものであること、奥さまはご自分で絵をお描きになったりとアート心をお持ちで、メキシコやアフリカなど海外への旅行もお出かけになるなどコスモポリタン的な雰囲気をお持ちの方であること、などから、造形性があって、明るく、開放的なお庭をイメージして作ることとなりました。
設計図
図面を作る過程で、
・リビングから真正面の部分にレイズベッド花壇を作る
・花壇は園路から次第に立ち上がっていくような石積みにする
・庭のポイントとして、オブジェ風の景石を配する
・草花・樹木共に常緑のものが少なく、冬が寂しいので常緑のものを多めに追加する
などのアイデアが決まっていきました。
※写真はクリックすると、拡大します。
外からの眺め
4月下旬 |
5月中旬 |
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入口
5月中旬 |
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庭の入口には、モッコウバラのアーチが仕立ててありました。
建物の雰囲気にぴったりマッチしていたので、これはそのまま生かすことにしました。
入ってすぐのところに、オブジェ風に景石を配しました。
庭のウエルカムオブジェになると共に、外からの視線を分散させる役割を担っています。
また、通路の妨げになっていたヒメコブシの木を少し外側にずらしました。
今回、低木以外の既存樹で移動させたのは、このヒメコブシだけです。
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本庭(入口側)
施工前 |
施工後 |
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当初の設計図では、入口からの園路は一本の道になっていたのですが、作っているうちに一本では景色が面白くならないと思い、二本に枝分かれした道を庭の中程で合流させることにしました。
ちなみに、写真右側にあるサボテンは日当たりのよい軒下にあるため、地植でこんなに大きく生長しています。 |
本庭(テラス前)
裏庭
オブジェ
2階から
色々な角度から
今回の敷石や石積みに使った石は、地元いわき産出の花崗岩です。
淡いピンク色をした桜御影の他にも、青みを帯びたもの、ベージュ色のもの、茶褐色のものなど、様々な色合いがあり、石の配色を考えながら作業しました。
英国風の建物に似合った明るい庭にすることを今回は強く意識しながら作りましたが、この石の色合いはぴったりマッチしたのではないかと思います。
園路の分岐点や、小鳥と天使のオブジェは、質感の違う新筑波石を用いて、石どうしに緊張感を持たせました。
石を使ってオブジェのような景石をいくつか作りましたが、最初から形が頭にあったわけではなく、石の形や色合いを見て、素材と相談しながら作っていきました。
できあがってみると、素材が物語を呼び込んで、色々な形に見えてきました。
小鳥がいたり、天使がいたり、石積みの正面部分が、画家モンドリアンの「コンポジション」シリーズに見えてきたり、と楽しく作業できました。
最初の設計図よりだいぶ作り込んでしまいましたが、庭づくりでは、現場でのひらめきや発見が大切だと思います。
このお庭は、草花が大きく生長してはじめて「完成」になる庭です。また6月頃に写真を撮りに伺いたいと思います。(※追記 08年5月中旬に伺って写真をアップしました。)
こちらの庭作りの様子は、ブログ「小梅の修行日記」2007年10月、11月の記事でご覧いただけます。
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