美しい空間と時間 庭園管理植吉
ライン
植木屋雑記帳

 

■かじりつき 

 イチョウの木肌は温かい。乾いて手に馴染むので、かじりついて登る。立枝が多いので、それを根元で切って足場を確保して登る。ひと枝登るごとにぐんと高くなる。枝が折れても表皮が強いのでポキリとはいかない。ぐにゃりと曲がるのでまず落ちることはない。

  シイノキはその点危うい。中がうろになっていることが多く、キノコや菌糸がよく生えている。木肌が固い割に脆く、滑りやすい。何度も落ちそうになった。皮 一枚で森のような枝葉を盛っていることがある。かじりつきは危ないので、丸太を通し、二連梯子を立てて、消防の出初式のように足を絡めて枝葉を透く。

  ヒバやヒノキやサワラやスギなどの常緑針葉樹は細かい古葉や枯葉が襟元に入り込むので、ヤッケのフードを被り、タオルを首筋に巻いて登る。枝が混んで登れ ない時は、螺旋を描くように元枝を切り、身体を入れてゆく。そうして樹上まで登り、光を入れ、空を入れる。それから綾枝、平行枝、逆さ枝などを抜きながら 降りてゆくと、大体の樹形は整い、風が入り、やわらかくなる。あとは表面の枝葉の混んでいるところを透かしてやればいい。

  クスは枝を切ると樟脳のにおいがする。成長が早く、組織が軟らかいから、すぐ枝が折れる。大雪で折れた大クスの枝を除去している最中、握っていた左枝が折 れて、落下した。咄嗟に下の段の枝をつかんでぶら下がった。ゴリラの真似をして叫びながら雪を振るい落としていたのが悪かった。木にかじりつくときは必ず 三箇所の安全を確保する。最悪二箇所は必要だ。両手両足、背、腹、ふくらはぎ、どこか二箇所は確実な場所におく。枯れ枝や弱い枝は枝元を踏む。そしていま この枝が折れたらどうなるかシュミュレーションしながら作業する。落ちるかもしれないと思っているときは落ちない。落ちるときは大抵無防備な時だ。

  マテバシイは登りやすい木だ。ふところが広く、枝葉が大雑把なので、ノコギリでバサバサやっつける。なかにはちょっとした隠れ家のような空間がある。作業 を止め、汗を拭き、呼吸を整える。鳥がよく巣を作っている。たいてい空き巣だが、たまにノバトなどが卵をあたためている。

 

 

line
 →植木屋雑記帳一覧 →このページのトップへ →次の項目を読む

庭園管理 植吉 代表者 鎌田吉一 福島県いわき市田人町黒田字唐沢14