キリギリス
オニヤンマが、昼食中のテーブルの上に音もなく現れて、しばらく空中に 停止していた。 これはこれは、と見ているうちに、また「ツィ」と線を引くように去った。 残された場所が、寂しいような気がした。 薪ストーブの煙突のスス掃除をしていると、漆喰色に変色した蛙が跳びだ した。 高い場所から身を投げ出したので、長いあいだ手足を開いて落ちていった。 そんな中空を、これから艶やかな女郎蜘蛛が巣を張り、地震のように小刻 みに揺らしてゆく。 そして真夏の石の上を高速で動いていたビロード色のトカゲも、どこかの 隙間に身を隠してゆく。
つい、っい、つい、と秋が遷(うつ)る。
障子戸で「チョンッ、ギー、ギー!」とキリギリスが鳴いて、夜中、何か の夢見から叩き起こされた。 捕まえて便所の窓から放つと、草の露が月に光っていた。
庭園管理 植吉 代表者 鎌田吉一 福島県いわき市田人町黒田字唐沢14