ひぐらし
ハナミズキの木から降りて、地面に足先が触れたとき、不意に、 この星に降り立ったという気がした。 見上げれば透かした枝葉に空が青い。 ずっと以前、塾講師をしていた時、 教室へ向かう二輪車の背中を夕陽が差した。 太陽は、他の惑星や衛星と一緒にこの星を照らし、私の背中を差している。 その影が木々や電柱と共に伸びている。
もっと以前、ひ弱な子どものころ、台風が去った河原に出て、 ごんごん流れる雲を見た。 雲は木星の渦巻きのように極彩色で、混沌として、命のようだった。
時が経っても思い出すのはこんな情景ばかりだ。 日々を繋ぐ喜怒も哀楽も、いつのまにか忘れ去っている。
今日も暑かった。 傍らで妻が懸命にサツキを刈り込んでいた。 仕事帰りの山道でヒグラシの初鳴きを聞いた。
庭園管理 植吉 代表者 鎌田吉一 福島県いわき市田人町黒田字唐沢14