美しい空間と時間 庭園管理植吉
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植木屋雑記帳

 

■ 風の音

雑木山のコナラにかじり付いて谷の向こうを見ると、どこかしら秋の気配がある。
猿のように高い枝に留まったまま手甲で汗を拭った。

そういえばさっきツクツクボウシが鳴いていた。
蜻蛉がついっ、ついっ、と幾つもの線を引いた。

掃除をしていた妻が、

吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ
(文屋康秀)

とつぶやくので、何だ? と問うと百人一首らしい。
ふと出てきたのだという。
わけ分からずとも古典は暗唱して身にしておくものだ。

今朝は雨模様だったので、仕事に出るかどうか迷った。
夜中に猫に起こされて寝不足だった。
猫は人間の都合など斟酌しない。

合羽と長靴を用意したが、現場は足袋のまま凌げた。
ああ、なんとか今日も一日になりました。
午後からはもっと風が深くなった。

秋来ぬと目にはさやかにみえねども風の音にぞおどろかれぬる
(藤原敏行)

これから光は少しずつ斜めに内省してゆく。
なぜだか知らぬがこの星は回り、周回しながら傾いて、色んなものを明滅させる。

 


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庭園管理 植吉 代表者 鎌田吉一 福島県いわき市田人町黒田字唐沢14