風の音
雑木山のコナラにかじり付いて谷の向こうを見ると、どこかしら秋の気配がある。 猿のように高い枝に留まったまま手甲で汗を拭った。
そういえばさっきツクツクボウシが鳴いていた。 蜻蛉がついっ、ついっ、と幾つもの線を引いた。 掃除をしていた妻が、
吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ (文屋康秀)
とつぶやくので、何だ? と問うと百人一首らしい。 ふと出てきたのだという。 わけ分からずとも古典は暗唱して身にしておくものだ。
今朝は雨模様だったので、仕事に出るかどうか迷った。 夜中に猫に起こされて寝不足だった。 猫は人間の都合など斟酌しない。 合羽と長靴を用意したが、現場は足袋のまま凌げた。 ああ、なんとか今日も一日になりました。 午後からはもっと風が深くなった。
秋来ぬと目にはさやかにみえねども風の音にぞおどろかれぬる (藤原敏行)
これから光は少しずつ斜めに内省してゆく。 なぜだか知らぬがこの星は回り、周回しながら傾いて、色んなものを明滅させる。
庭園管理 植吉 代表者 鎌田吉一 福島県いわき市田人町黒田字唐沢14